sacaiのカーディガンと子育てファッション

大学の同級生にすごく服好きな友人がいた。やけに洒落たジャケットを着ていた日に「それどこの?」の聞いたらバレンシアガだという。20万、と聞いてひっくり返りそうになった。バイト代を貯めて食費も削って服を買う人だった。

デザイナーの思想にも詳しく、「三宅一生は、洋服のデザインとは体と布の間の空気をデザインすることだと言ってる。建築も、人と建物の間の空気のデザインだと思う。」と言ってた彼女は今、地元の金沢で建築士として活躍しているらしい。その彼女が時々着ていたのがsacaiだった。

当時の私はお金がなかったから、古着を買っては自分の体に合うように縫い直して着ていた。精一杯おしゃれをしてるつもりだったけど、素人洋裁でめちゃくちゃな服を着ていたなと今は思う。

sacaiの服はどうやって縫っているかわからないものが多い。ニットとスエット、とかカーディガンとシャツ、とか異素材の組み合わせにどうやったらこんな服を思いついて、現実に作り出せるのかと信じられない気持ちになる。一度着てみたかったけど、自分には絶対に似合わないだろうと思っていた。

少し前にリサイクルショップでコットンニットの背面にシフォン素材を組み合わせたsacaiのカーディガンを見つけた。色はネイビー単色で一見普通のカーディガンに見えた。着てみてびっくりしたのが、体を動かすたびにシフォンがふわりと揺れること!楽しい!!と思った。そしてカーディガン一枚を羽織るだけで、何だかクリエイティブな人に見えた。これがデザイナーズブランドかと実感した。

古着だけど状態は良く値段は2万円だった。えいっと勇気を出して買ってみた。

子育て中の今、休日は汚れが気にならないネイビーのTシャツにデニムを制服のようにいつも着ているが、その上にsacaiのカーディガンをふわっと羽織るといつもわーっとテンションが上がる。子育て中でも気持ち良く装うことがどれだけ精神に重要か、sacaiのカーディガンを着て気づいた。

sacaiは服好きな人に愛されるモード系ブランドというイメージがあるし、ブランドの人格と私自身は全く合っていないと思う。(sacaiに似合わせに行くならアイラインくっきり、ダークな口紅、ウエットでぱつんと切りっぱなしの髪型で、性格もタフで強めな女のイメージ。愛想が悪くてもそれがサマになる、みたいな。)

だけど、sacaiのカーディガンを着ることで自分の内面にほんのすこーしだけあるクリエイティブな部分はかなり満たされるなと思った。

川上未映子さんがブランドについて「相手の威光を借りて自分を表現する」と書かれていたけど、まさにsacaiのクリエイティビティの力を借りることで自分自身が面白く創造性豊かな人間に感じられた。たった一枚のカーディガンで。

良い服はたとえ古着でも力を持っている気がする。

ファサっと椅子にかけててもこの優雅さよ。いつか古着じゃなくてお店で買い物してみたいわね。勇気がいるけど。