「我が手の太陽」読んだ

石田夏穂さんの「我が手の太陽」読んだ。もう途中から怖くてしょうがなかった。仕事の年数が増えるほど自信とプライドで、自分の失敗を認められなくなるんだろうね。仕事にプライドを持つって何なんだろうね。自分は仕事できないなって思ってるぐらいのほうが何事にも慎重になっていいのかもね。ただ自己評価が低くなりすぎるとそれはそれで「自分なんかが..」とチャンスを掴みに行けないだろうし、どう思いながら働くのがいいんだろうね。石田夏穂さんはこういう不安定さを描くのが上手いなあと思う。「ケチる貴方」でもついやり過ぎる、やらなさ過ぎる、その行き来に人間のままならなさを感じて面白かった。

あと私は工事現場に時々行くんだけど、これほど臨場感を持って溶接工の仕事を疑似体験できる小説ある!?そうそうスタッド溶接は専用電源じゃないとだめなんだよ大電流だから、とニヤニヤしてしまった。型枠工、左官工とかの職人小説も読んでみたい。

小説の主人公は自分の仕事を「工事の人」とうっすら見下していてそれがちょっと苦しかった。私は何の職人でもないし、もちろん溶接もできない。職人さんがいないと現場は進んでいかない。でもオフィスの空調が管理された環境で働いてる時、暑さ、寒さの中、手を動かす職人さんに後ろめたさがないわけではない。あと工事現場は多分東南アジア出身と思われる人も多い。外国から来て母国とは違う状況で働いている。雇ってる会社は来てくれた人たちをどうか搾取しないでほしい。技術を身に着けてお金を稼いで幸せでいてほしい。私がそんなことを思うのも傲慢かもしれないけど。

関係ないけど、昔いとこが総合商社に内定したとき親戚があまりにもすごいすごいと褒めるので私は内心「商社なんて、モノ右から左に流すだけやろ」と悪態をついてた。総合商社に内定をもらう難しさもわかってたし、「上」の仕事についたことが羨ましくて仕方なかったんだと思う。

仕事に上も下もあるはずがない。その人が自分の仕事に満足して幸せに働けていたら、それは十分いい仕事だ。だけど時々見失ってしまうのよね。IT系とか、外資系とか、金融系とか、医者です、とか弁護士です、とかそういうのに一瞬怯んでしまう感じをなんか思いだしちゃった。

前に好きで何度も見てたドラマ「すいか」で、銀行員の主人公と警察官の女性のこんな会話があった。主人公が、仕事は何をやっているかの内容が大事だ、と言ったときに刑事はこう返す。

刑事「え、飛行機のパイロットより宇宙飛行士がえらいとか、そういうこと本気で思ってます?」

主人公「いや、別にあの」

刑事「じゃあ、信用金庫のOLはお豆腐屋さんより上ですか?下ですか?

それつまらないでしょ。ものすごく面白い人とか、ものすごく尊敬する人と一緒にいる職場が最高でしょやっぱり」

主人公「いるんですか? 刑事さんにはそういう人が」

刑事「私の場合は、犯人...?」

すいかのドラマは名ゼリフが多いんだけど、片桐はいり演じる刑事のセリフは、働いてる今すごく胸に迫りくるものがある。

「ものすごく面白い人とか、ものすごく尊敬する人と一緒にいる職場が最高でしょ」って言われたら、何も言えなくなっちゃうな。自分の職場はどうなんだろうな